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東京家庭裁判所 昭和40年(少)6266号 決定

少年 M・Y子(昭二四・八・一七生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、実母M・T子及びその内縁の夫である○屋○治(四七歳)等と都内足立区○○五丁目○番○○号に居住していたが、上記○治は、前科五犯を有し、酒乱で怠け者・乱暴者であるうえ、少年に対し、その小学校四年生の頃より性的いたずらを始め、小学校六年頃よりは無理矢理に肉体関係を求めるようになり、遂に昭和三九年一二月には妊娠したため中絶するとの事態まで生じ、少年はじめ一家の者は○治に対し深い怒りや憎しみを抱いていたところ、昭和四〇年三月○○日夜上記自宅において、○治は又もや焼酎四合位を飲んだ後、すでに就床していた少年のもとにきていたずらを始め、しかも逃れようとする少年や止めに入つた実母等に乱暴したうえ、一人少年の床に入つて寝入つてしまつた。少年は、その姿をみながら、かねてからの怒り・憎しみや一家の今後のことへの懸念・不安等が一挙に爆発し、むしろこの際○治を殺害するに如かずと決意してこれを実母T子に図つたところ結局同女も同調し、ここに両名共謀のうえ○治を絞殺することを企て、同日午後一〇時四〇分頃自宅六畳間において、先ず少年がネッカチーフを○治の頸にまきつけて両名においてその両端を強く引き、次いで実母T子が更に三尺帯をその上にまきつけ両名においその両端を強く引き絞め、因つて即時同所において○治を窒息死に至らしめてその目的を遂げたものである。

(適条)

刑法第一九九条、第六〇条

(処遇理由)

一、本件行為は、その事情はともかく、重大危険な行為である。なるほど被害者は性格異常者的な人間でありその為したことは非道の行為であつて、少年や実母達の心情は察するに余りがあるけれども、しかし矢張り解決の途は他にあるのであつて、このことで人命という尊いものを断つことが許されるものではない。又少年達は自首もし一応は反省の言葉も述べてはいるが、未だ自己の行為についての真の反省・自覚に乏しいようである。これらの点について当裁判所は、少年の立場に同情を覚えつつも、なお少年に対し深くきびしい反省と自覚を求めたいと考える。

二、少年の知能は限界域にあつて甚だ低く、又母親も低知能で、このことは本件につき、このような破局に至るまでの問題処理の仕方や本件犯行そのものの惹起に深いつながりがあると認められる。

三、少年の性格はやや小児的である。今のところ現象的には根本的な深い偏よりはみられないが、生来の低知能としつけの不充分等から多少わがままな点があり、又やや軽佻で雷同的な外向性があつたところ、本件被害者たる○治の出現以来、一面において母親への依存性を高めると共に、他面除々に対人攻撃的な傾向が培われていつたようで、本件犯行の頃にはその短絡的行動性は相当強かつたものと認められる。

四、鑑別の結果によると、少年にはてんかんの精神障害がある。しかし現実に発作はなく、又てんかん者特有の気分易変性・爆発性も今のところさほど著しくなく、本件についても、この障害と犯行とは直接結びつかないようである。(むしろ現在までにおいては、てんかん者の一特長である粘着性が良い方に作用し、これに職場が楽しいこともあつて、仕事は勤勉であつた)。

五、非行歴はもとより、今迄のところ虞犯的行動もない。しかしこの少年のもつ種々の問題点-たとえば低知、わがまま・雷同的外向性、てんかん等-を考え、これに本件による解放感を併せ考えると、今後の環境如何では、不良交友・遊興等に走つて虞犯的傾向を有するに至る危険性がないとはいえない。

六、母は、目下未決監に拘置中である。母に代る保護者としては母方の伯母夫妻が横浜に居住しており、物心ともに一応保護の熱意と能力を有するものと認められる。

七、上記の諸点を総合し、なお少年が一五歳七ヵ月であることをも考慮すると、この際少年を医療少年院に収容し、本件に対する反省や責任の自覚を深めさせ且つは心の平静化を図ると共に、てんかんに対する医療的処置と併せて性格の矯正教育を行い、他方その間に将来の受入態勢の整備を計ることが相当であると考える。

以上のような次第であるから、少年法第二四条一項三号を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 小谷卓男)

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